施術中に地味によく聞かれる質問があります。
「先生、鍼って深く刺した方が効くんですか?」
というものです。
なんとなく、深い方が効きそうな感じはありますよね。
その気持ち、わかります。
でも実際は、そんなに単純でもありません。
僕が大事だと思っているのは、何cm刺すかよりも「どの組織を治療したいのか」です。
ちょうど、参考になる研究が2026年に発表されました。

浅層と深層を比べた研究
研究のタイトルは
「Ultrasound-guided techniques in the treatment of myofascial pain syndrome: a comparison of superficial and deep dry needling」
です。
日本語にすると、
「筋膜性疼痛症候群に対する超音波ガイド下の手技:浅層と深層のドライニードリングの比較」
といった内容です。
ドライニードリングとは、解剖学的・西洋医学的な考え方に基づく鍼治療のことです。
対象者は、首から肩にかけて筋膜性疼痛症候群のある80名でした。
参加者を無作為に2つのグループへ分け、エコーで確認しながら治療しています。
浅層のグループが狙ったのは、筋肉より浅い層にある深層のファシア(deep fascia)。
深層のグループは、筋肉の中にあるトリガーポイント(押すと痛みが響く、筋肉内の過敏なポイント)を直接狙いました。
単純に「浅く刺した」「深く刺した」だけではなく、エコーで異なる組織を狙い分けた研究なんですよね。
このあたり、地味にすごいと思います。
結果は、どちらのグループでも、
痛み、日常生活への支障、圧迫したときの痛みなどが改善しました。
「浅いところを治療しても意味がない」という結果では、まったくありません。
そのうえで両群を比べると、筋肉内のトリガーポイントを狙った深層グループの方が、
痛みや機能、首の動きなど、評価した項目全体で良い結果を示しました。
正直、最初に結果を見たときは「やっぱり深い方が強いんだな」と思いました(笑)。
ただし、評価は治療から1週間後までです。
両方のグループが自宅での運動も行っているので、
この研究だけで鍼単独の長期的な効果や、
「深い鍼はいつでも優れている」とまでは言えません。
大事なのは「深さ」より「どこを狙うか」
身体の痛みに関係する場所は、いつも深いところにあるとは限りません。
皮膚のすぐ下の組織が関係していることもあれば、
深層のファシア、筋肉、さらに深い筋肉や神経の周囲を考えることもあります。
どの組織が症状に関係しているかは、患者さんごとに違います。
これは研究結果そのものではなく、僕が臨床で身体をみるときの考え方です。
浅いところが対象なら、浅い治療でいい。
深いところが対象なら、そこまで届かせる必要がある。
「深い方がすごい」という話ではないんですよね。
重要なのは何cm刺したかではなく、症状に関係していると考えた場所まで届いているかどうかです。
とはいえ、深い場所を治療するときには、ひとつやっかいな問題があります。
身体の中は、外から見えません。当たり前ですが(笑)。
皮膚の下には、皮下組織、ファシア、筋肉、血管、神経、骨があります。
場所によっては、その奥に肺などの臓器もあります。
鍼灸師は解剖学を学び、触診や身体の目印を頼りに施術しますが、
深い場所や解剖学的に危険な場所ほど、鍼先の位置、目的の筋肉までの距離、
途中にある血管などを正確に把握することが大切になります。

エコーを使う理由
当院では、必要に応じてエコーを使いながら鍼治療をしています。
エコーを使うと、皮膚から筋肉までの深さ、筋肉やファシア、血管、骨の位置をその場で確認できます。
鍼を映しながら施術すれば、鍼先の位置も確認できます。
エコーを使った鍼治療というと、「普通より深く刺す治療」と思われることがあります。
でも、僕は少し違うと思っています。
エコーの価値は、深く刺せることではありません。
必要な場所と、その途中にある組織を確認しながら、
狙った場所へ届けるための道具です。
浅いところを治療した方がよければ浅く。
深い筋肉が対象なら、その筋肉まで。
もちろん、エコーだけを見て治療するわけでもありません。
まず患者さんの話を聞き、身体を動かしてもらい、
実際に手で触れながら、どこが症状に関係していそうかを探ります。
そのうえで必要に応じてエコーを使い、その場所の下に何があるかを確認します。
手で感じること。
解剖学的に考えること。
画像で確認すること。
このあたりを組み合わせながら、治療する場所を決めています。
今回の研究で深層グループの方が良い結果を示したからといって、
「深く刺せば刺すほど効く」という意味ではありません。
深い場所への治療そのものが偉いわけでもないんですよね。
必要な場所が深部にあると考えたとき、そこへ安全に、きちんと届けられる。
僕にとって、エコーはそのための道具のひとつです。
鍼の深さが気になるときは、施術のときに気軽に聞いてみてください!
参考文献
Korkut M, Yaşar MF, Kılınç S. Ultrasound-guided techniques in the treatment of myofascial pain syndrome: a comparison of superficial and deep dry needling. Medical Ultrasonography. 2026. doi:10.11152/mu-4618.

