【シリーズ:脳の予測機能と痛み】第2回:予測が「呪い」に変わる時

前回、脳が「予測マシン」だっていうお話をしました。

階段を降りる時、脳は次の段差を予測していて、

予測が外れると「ドキッ」とする、と。

その予測機能って、省エネで活動するのには

めちゃくちゃ便利なんですが…

実は、暴走すると厄介なことになるんです。

今日は、その「予測の暴走」についてお話しします。

「動くと痛い」という予測が固定化される

慢性的な痛みを抱えている方は多いです。

圧倒的に多いのは男女ともに腰痛、肩こりです。

病院に行っても「特に異常はありません」と言われることもしばしば。

でも、痛いものは痛いですよね💦

実は脳の予測が「固定化」されている可能性があるんです。

どういうことかというと、

脳が「体は危険な状態にある。動いたら痛いはずだ」

という予測を持ち続けてしまっている状態なんです。

実際に体から危険信号が来ていなくても、

脳が勝手に痛みを作り出してしまっている状態ともいえます。

火災報知器が壊れた家

痛みはよく「壊れた火災報知器」に例えられます。

最初に怪我とか炎症で、

本当に体のなかに「火事」が起きたとします。

その時、脳は「危険だ!痛みを感じさせて、体を守らなきゃ!」

と火災報知器を鳴らします。

これは正常な反応です。

でも、火事が鎮火した後も、

報知器だけが鳴り続けている・・・

それが慢性疼痛なんです。

体はもう治っているのに、

脳が「まだ危険だ」って信じ込んでいるんですよね。

だから、痛みが消えない。

さらに厄介なのが、

この予測が行動を支配してしまうことにあります。

これを「恐怖回避モデル」と言います。

流れはこんな感じです。

  1. 最初、怪我で痛みを感じる
  2. 「この痛み、最悪だ…動いたらもっとひどくなるかも」って思う
  3. 動くことに対して、強い恐怖と「痛み」の予測が生まれる
  4. だから、動かないようにする(回避行動)
  5. 動かないから、筋力が落ちて、体が硬くなる
  6. 結果、本当に動きにくくなって、痛みが取れない

これは完全に悪循環になっていますよね。

「動くと痛い」という予測自体が、

動かない体を作り、その予測を現実にしてしまうんです。

僕も以前、膝を痛めていたことがあり、

しばらく「イスから立ち上がるのが怖い」と思ってました。

なので、無意識に膝をかばって、変な歩き方になります。

そしたら、他の所が痛くなって(笑)

「あ、これが悪循環パターンだな」と気づいて、

少しずつでも動かすようにしたら、

痛みは良くなっていきました。

「呪いの言葉」が痛みを作る:ノセボ効果

もう一つ、予測が悪さをする例があります。

それがノセボ効果です。

プラセボ効果って聞いたことありますよね?

「これは効く薬ですよ」って言われると、

実際には偽薬でも効果が出る、みたいなやつです。

ノセボ効果は、その逆です。

「これは痛いですよ」と言われると、

本当に痛みが強くなるんです。

例えば、注射の時。

「ちょっとチクッとしますよ」って言われると、

言われない時より痛く感じる。

これは研究でも証明されてるんです。

言葉によって作られた「痛みの予測」に、

脳が実際の感覚を合わせてしまうんですね。

これが実は医療現場でも問題になっています。

例えば、レントゲンを見た医師が

「あー、背骨がすり減ってますねぇ」って言ったとします。

患者さんは

「え、すり減ってる!?じゃあもう治らないんだ…」

と思い込んでしまう。

そして、その「治らない」という予測が、

本当に痛みを長引かせてしまうんです。

患者さんが良くなることを諦めてしまうんですよね。

でも実際は、背骨の変形と痛みって、

あんまり関係ないことが多いんです。

変形があっても痛くない人もいるし、

変形がなくても痛い人もいる。

言葉の使い方って、本当に大事なんです。

僕たち治療者も、すごく気をつけないといけないなと思います。

しかし、そういった予測は学習によって作られたものなので、

新しい学習で書き換えられるんです。

次回、第3回では、その「予測の書き換え方」についてお話しします。

特に「ファシア」という体の組織が、

どう脳の予測に関わっているのか。

そして、どうやって悪循環を断ち切るのか。

希望のある話をしますので、楽しみにしていてください!