事故や手術で手足を失った方が、
「もうないはずの手が痛い」と感じる幻肢痛というものがあります。
この治療に鏡を使う方法があります。
鏡に健在な方の手を映し、それを“失った側の手”と脳に錯覚させることで、痛みが軽減していくという治療法です。
この治療法をミラーセラピーというのですが、なぜ痛みが軽減するかの神経学的メカニズムはまだ解明されていないようです。

幻肢とは、「失ってしまったもの」に対する痛みです。
中野信子さんがあるYouTube動画の中で話していたのですが、
これは肉体的な話だけではなく、
人々はいつも、
「あの時ああさえしなければ、もっとこうだったはず」や、
「あの人がこうしてさえくれれば、こんなに苦しまずにすむのに」など、
失ってしまったものや、
失うかもしれないものへの不安や恐怖で心を痛めているということです。
アートにはこれらを癒やす役割があるのではないか?
という主張です。
人が苦しんでいるのは、単に失ったモノではなく、
その先にある「記憶」や「想い」なのではないか?
これは臨床をしている上でよく感じます。
物理的な治療だけでは変わりにくい部分だと思います。
なかなか変化がすぐに現れない時に患者さんが言われるのが、
「前まではあんなに簡単に◯◯が出来ていたのに、、、」
「このまま歩けなくなったらどうしよう、、、」
「あの痛みが再発したらどうしよう、、、」
などの、まさに失ってしまったものや、失うかもしれないものへの不安や恐怖です。
そういった思いを抱えたままの体は、なかなか緊張を解いてくれません。
そんな時に必要なのは、正しさや理屈ではなく“感じること”なのかもしれません。
アートのような、言葉にならないけれど、心にじわっと染みるような体験です。
今はまだ実現できていませんが、いつか治療中に撮影した写真にアートを加えて、
患者さんに作品としてお渡しするような試みをしたいなーなどと考えています。

鍼灸とアート。
まったく違う世界のように見えて、実はとても近い場所にあるのです。